ピンポン・・・・


「ごめんくださーい桂ですけど・・・・」


チャイムを鳴らすがそこからは誰の返事も無い。


「ちっ留守か・・・事は一刻を争うと言うのに・・・」


舌打ちしつつ、その場を後にしようとした。
だが、すぐに玄関の扉は開く。

そこには銀時でもの姿でも無い、真っ白な大きな犬・・・
くりっとした愛らしい瞳でこちらを見つめていた。


「す、すみません銀時君とさんいますか?」


勿論反応等ある訳が無い。
桂は溜息を付くと手に持っていた茶菓子を犬に差し出す。


「じ、じゃあ茶菓子だけでも置いとくのでよかったら食べてくださ・・・・」


バクン・・・


桂は定春に食べられた。












【コスプレするなら心まで飾れ】





―――カコン・・・・


添水の音が実に風流である。
綺麗に手入れされた庭園は芸術とも言える程美しいものであった。


―――カコン・・・・


再び竹と竹とがぶつかり合う音が聞こえる。
その添水を神楽はもの珍しそうにずっと眺めていた。


「いやァ・・・2・3日家を開ける事はあったんだが1週間ともなると・・・連絡は一切無いし、友達に聞いても知らんときた・・・」


男が話しているのを聞いていないのか空ろな目で湯呑みを片手に持つとそのままズボンにぶちまけている。


「うわァ・・・だからあんま飲むなって言ったんッスよ・・・!」


・・・そう。
今日は仕事の依頼である屋敷に来ていた。
どうやら娘が行方不明になっているらしい。

本来万屋じゃない私は来る筈も無い。
しかし・・・隣に座っている銀髪の男。
銀時が昨日遅くまで飲みに行っていてその2日酔いが酷いらしい。
そんな奴じゃ頼りないから手伝ってくれと新八に頼まれたのだ。

特に今日は真選組の仕事が入っていた訳じゃないし住まわして貰ってるご恩もあって私は快く協力することになった。
可愛い新八君の頼みは断れ無いしね!


「親の私が言うのもあれなんだが綺麗な娘だから・・・何か良からぬ事に巻き込まれているのでは無いかと・・・」


そう言って懐から娘の写真を出しこちらに見せる。






・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・綺麗・・・・?








「・・・・・・・・・・・・・っああ!!服が綺麗って事ね!」

「いや確かに服も綺麗ですがそれに負けない位娘も綺麗なんですよ」

「そッスねェ・・・何かこう巨大な・・・ハムを作る機械とかに巻き込まれている可能性がありますね・・・」


写真をまじまじと見つめながら言う銀時。
もはやこの写真には人間等写っていないように見えるのだろう。
分かるわ銀時その気持ちが!


「いえっそういうんじゃなくて!!何か事件とかに巻き込まれてるんじゃないかと」

「事件?あー・・・ハム事件とか・・・」

「ハムの機械に巻き込まれた事件・・・そんなのあったかしら・・・」

「オイお前等たいがいにしろよ・・・せっかく来た仕事パーにするつもりか・・・」


こんな銀さんだけじゃ頼りないと思ってさんを呼んだのに、これじゃあダブル銀さんで余計にヤバイ事になりそうっすよ・・・

―――そう嘆く新八だった。


「でもそれはそうと、こんな仕事私達に任せていいんですか?警察に相談した方がいいんじゃ・・・」

「そんな大事には出来ん!我が家は幕府開府以来、徳川家に仕えて来た由緒正しき家柄・・・娘が夜な夜な遊び歩いていると知られたら一族の恥だ。何とか・・・内密のうちに連れ帰って欲しい・・・」


成る程。
それでこの万屋に依頼してきた訳か。
だが、何の手がかりも無しに果たして見つけられるだろうか・・・

この子の年齢を考えたらまだ遊び盛りな年頃。
ならば事件とかでは無く、男の家にでも転がり込んでいるのではないか・・・?

そう思ったがこれも依頼だ。
私達は唯一の手掛かりであるその写真を持って娘を探しに出掛ける事となった。
























「あー?知らねェよこんな女・・・」

「この店に遊びに来てた言うてたヨ・・・」


娘の友達の話によるとよくここへ来ていたと言う。
周りでは沢山の天人達が酒に酔い、踊り遊んでいた。
こんな所にこんな場所があったとは驚きだ。


「そんな事言われてもねェお嬢ちゃん。地球人の顔なんて見分けつかねェんだよ」

「はァ!!??じゃあこの写真の女と私は同じ顔って言う意味なの!!??殺すわよ!!」

さん落ち着いて下さい!!仕事が捗りませんから!!」


鶏の胸倉を掴み今にも斬りかかろうとしている私を新八が懸命に止める。
こんなハムと一緒にされたくないわよ!天人はこれから嫌いだわ!!


「と、兎に角俺は知らねェよ。他に名前とか何か分からないのかよ?」

「え、えーと・・・うーんと・・・ハ、ハム子」

「嘘付くんじゃねェ!!明らかに今付けただろ!!そんな投げやりな名前付ける親いるかァァ!!」

「忘れたけど何かそんなん・・・」

「オイイィィィィ!!ホント探す気あんのかァ!!??」

「神楽・・・もういいわ・・・」


この子に任せていては一生娘は探せ無いだろう。
いや、寧ろ探す気すら失せてくる・・・


「どうするの銀時?」

「あー・・・もういいんだよ。どーせ男の家にでも転がり込んでんだろ。あのバカ娘・・・アホらしくてやってられっかよ。ハム買って買えりゃあのおっさんも納得するだろ。」

「誤魔化される訳ねーだろ!!アンタどんだけハムで引っ張るつもりなんだよ!!?」


周りの騒音で頭が痛むのかダルそうに目を瞑っている銀時。
そしてゆっくりと身体を起こすと何処かへ行こうとする。


「悪ィけど2日酔いで調子悪いんだよ。適当にやっといて新ちゃんちゃん」


そしてそのままトイレの方へと行ってしまった。
一体何しにここまで来たのだろうか。


慌てて新八が立ち上がろうとすると後ろから来ていた人とぶつかってしまう。
びっくりして振り返るとそこには眼鏡を掛けた天人の姿があった。


「す、すいません・・・」

「小僧・・・何処に目ェ付けて歩いてんだ?」


表情を全く変える事無く新八を見下ろしている。
直感で思った。





(この男・・・他の天人と何か違う・・・)

その異様な感じに私は違和感を覚えた。
ぶつかった処を手でぱんぱんと払うと次に新八に手を伸ばす。

やばいと思った私はすぐさま席を立ち刀の鞘に手を置いた。
手を出すかどうか・・・・


「肩にゴミなんぞ付けてよく恥ずかしくも無く歩けるな・・・少しは身だしなみに気を配りやがれ」


しかし天人はただ肩に付いたゴミを取っただけだった。
ふっとそのゴミを飛ばすと何もせず銀時が向かった方向へと歩いて行ってしまう。
それを確認した後私はようやく鞘から手を離した。


さん・・・今の人・・・」

「・・・・」


新八も感じたのだろうか・・・この妙な感覚を。
私は新八の問いに応える事無くずっと男の背中を見ていた。


何を焦る必要があった・・・?


ただゴミを取っただけだと言うのに。
しかし、この奇妙な感覚・・・これは一体何なのだろうか。

嫌な予感がする・・・・

(こんな場所にいつまでもいない方がいいかもしれないわね・・・)











「新八〜〜」


しかしそんな考えは神楽の能天気な声で掻き消される。
何か手掛かりでも見つかったのだろうかそう思い、振り返るとそこに居たのは娘でも何でも無い太った男。


「もうめんどくさいからこれで誤魔化す事にしたヨ」

「誤魔化せられる訳ないだろ!?ハム子じゃなくてハム男じゃねェか!!

「ちっ・・・・ハムなんてどれ喰ったって同じじゃねェかクゾが・・・」


ちょっと神楽ちゃん今反抗期なの!?クソとか聞こえましたよお姉さん!

いやでもハム子も実際女なのか男なのかわからないし、
確かに神楽ちゃんの言ってる事は一理あるかもしれないわ、うんうん。


さんまで何納得してんっすか!?丸聞こえですよ!!ったくどいつもこいつも仕事なんだと思ってんだチクショー!!」


頭を抱えて地団駄している新八。

その気持ち分かるわ・・・
最近突っ込みに回ってようやく貴方の役割の大切さがわかった処だもの!!(ならやるな)
総悟とか総悟とか総悟とか・・・あと総悟のせいでね!!

せっかく今日はあの皇子から離れて十分ボケに回れると言うのに思い出した途端に溜息が出る。3人ですっかりやる気を喪失してしまっていると行き成り男が地面に倒れた。


「ハム男ーーー!!?」

「オィィィィ!!駄キャラが無駄にシーン使うんじゃねェよ!!」


倒れた事も気にせず突っ込んでいる新八。
どうせ酒に酔ったか何かだろうが取りあえず状態を見ようと思い、男を仰向けにする。
しかし、その表情は酒に酔っている訳でも気分が悪い訳でもなかった。

まるで薬にでもやられているかのような表情。
口から唾液を流し焦点は合っていない・・・


「あーもういいからいいから。俺がやるからお客さんはあっち行ってて。ったくしょうがねェな・・・どいつもこいつもシャブシャブシャブシャブ・・・」


先程の鶏がこちらに来るとそのまま男を担ぐ。
その手つきは慣れていてまるで何回もこの現場を見ているかのように驚く表情を見せない。
それよりも・・・先程から言っているシャブとは一体なんの事だろうか・・・


「シャブって何なの?」

「最近なァこの辺で新種の薬が出回ってんの。何か相当ヤバイらしいからお客さんも気を付けなよ。」



―――新種の薬

天人が来てからこの国にも薬が出回っている事は噂で聞いた事はあるが、まさかここもその一つの場所だとは・・・
では今の男もその新種の薬にやられたのだろうか。
しかしあの表情を見ていれば尋常では無い事くらいわかる。

こんな場所に娘が通っていると言う事は・・・



「まさかホントにシャブシャブになってんじゃ無いわよね・・・」





再び嫌な予感がした。


























「あーもう2度と酒なんて飲まねェ・・・毎回言ってるけど今回はマジで誓うよ。誰に誓おう・・・愛するに誓おう・・・・」


先程から便器に座ったまま一向にトイレから出て来ない銀時。
よりにもよってこんなに2日酔いが激しい時に依頼が来るとはついてない。
まだ頭がガンガン痛むそれに気分も優れない。
これはしばらくトイレから出る事は無いだろう。

そんな事を考えているとドアをノックされる音が聞こえた。
他のトイレは誰も使っている気配が無いと言うのになぜここをノックするのだろうか。


「はァい・・・入ってますけど・・・」

「いつもの頂戴・・・・」


返事をするとすぐさま何かを言われた。
それも女の声で。


「いつものって言われても・・・いつものより水っぽいんですけど・・・?」

「しらばっくれる気!?金の無いあたしはお払い箱な訳!?いいわよ、アンタ等の事警察に垂れ込んでやるから!!」


先程から意味のわからない事を喋っている女。
一体何の話だ・・・


「ちょ・・・お前待てって・・・別にいいけど何がって言われるよ・・・・」


取りあえずトイレから出ようと思い、水を流す。
ズボンを履き、トイレのドアを開けようとした時だった。





「てめェ誰に話しかけてんだボケが・・・もうてめェには用はねェよ豚女ァ!!」

「っ!?」


そして何か殴られたような大きな音が聞こえた。
銀時は素早く洞爺湖を持つと扉を蹴破る。
視界に入って来たそれらに銀時は目を見開いた。


殴られ床で倒れているのは今日依頼された行方不明になっていた娘。


頭から血を流し天人等に髪を掴まれ引き摺られている姿だった。























「遅いですね・・・銀さん」


一体どれ位待っただろうか。
一向に帰って来る気配は無い。
娘を探すどころか不可解な事がだんだん多くなってきた。


「ここにあまり長くいない方がいいわ。」

「じゃあ私ちょっと見てくるヨ・・・・」


そう言って立ち上がろうとした神楽の頬に何か突きつけられる。

それは銃だ。

見上げるとそこには天人達が拳銃を構え自分達を取り囲んでいた。
やはり・・・嫌な予感は的中した。


「てめェらか・・・こそこそ嗅ぎ回っている奴等ってのは・・・」

「はあ?一体何の話かしら」

「とぼけんじゃねェよ。最近俺たちの事を嗅ぎ回ってたじゃねェか・・・そんなに知りたきゃ教えてやるよ。宇宙海賊春雨の恐ろしさをな・・・」


宇宙海賊春雨・・・
それが今回新種の薬を売りさばいている元凶と言う訳か。
少しずつ謎が解けてきた。
まさかこんな場所にこんな奴等がいようとは・・・


「教えて貰おうじゃないの・・・その宇宙海賊春雨とか言う天人方の秘密をね・・・!!」


そう言ってふっと笑うと私は神楽に突きつけけいるその拳銃を足で蹴る。
こんな玩具で自分が怯むと思っているのだろうか。

ふいをつかれた男はすんなりと手から拳銃を離した。
そして鞘から刀を出すとそのまま斬り掛かる。

久しぶりだ。


「な、何だこの女は!?」

「強ェ・・・・!!」

「アンタ達が弱いのよ」


私の素早い動きに着いていけない天人達は武器を構える暇も無く斬られていく。
弾き飛ばされた天人が客のいるテーブルへと突っ込む。
その騒ぎに辺りは叫び、皆店から出て行く。

銀時がなかなか戻って来ない理由はこの為なのだろうか。
こいつらが何を思って目を付けて来ているのかわからない。
ただ娘を探しに来ただけだというのに一体誰と勘違いしているのか・・・



宇宙海賊春雨・・・

そんな名前聞いた事もなければどんな奴等なのかも全く知らないし興味も無い。
先程見たあの男・・・ひょっとすればこの春雨と関わりのある人物かもしれない。
その事が気がかりだが、今はこいつ等を何とかするしか無いだろう。
だが、この程度の腕の天人の集まりならばただの下衆。


雑魚だ・・・そう確信した時だった。










「遊びはその辺にしておくんだな・・・」

「!?」


余裕の声が聞こえた。
視線だけをそこに移すとそこにはぐったりとしている神楽と新八の姿が見える。
一体何を・・・・


「あの2人に何をしたのよ!?」

「これ以上暴れられると困るんでね・・・薬を嗅いで大人しくしてもらっただけさ」


そう言ってこちらに見せる白い粉。
これが・・・例の新種の薬か。

いくら腕のある2人であってもあれを嗅がされては動く事は出来ないだろう。
迂闊だった・・・・




「お前には死んで貰うよ、お嬢さん」

「ぐっ!」


2人に気を取られ背後を気にしていなかった。
いつの間にか自分の後ろに居た天人は持っている武器を大きく振りかざす。
寸での処で急所は交わしたが、横腹に武器が当たった。
ぽたぽたと血が流れ落ちる。


「つっ・・・・!」


その痛みで立つ事が出来なかった私はそのまま頭を強打され倒れた。
まさかこんな奴等にやられようとは・・・

薄れいく意識の中で自分の視界に入るのは神楽と新八の姿。
目は遠くを見ていて意識があるのかどうかもわからない。


攘夷戦争が終結し、皆の傍を離れた日から何一つ楽しい事なんてなかったのに・・・
ここに来て・・・銀時に再び会って、神楽・新八と『万屋銀ちゃん』で暮らしてから自分の笑顔が増えた気がした。
この2人が居たから楽しいと思える日々が過ごせた。
大切なものがまた出来たと思ったのに・・・


それを護れない事が悔しくて

でも身体は動いてくれなくて



私はそのまま意識を手放した。







「この女まだ生きやがる・・・しぶてェ野郎だ。どうする?」

「いい、そのまま外に放り出しておけ。だがこの2人はまだ使える・・・後でじっくり尋問してやるさ」




























空いっぱいに広がる星空。
この世が戦乱だと思えない程の綺麗な空であった。

だがここの空もあと少しで・・・




「いつか天人が居ない時代が来ると信じてる・・・皆が笑ってまた馬鹿やれる日が来る事を・・・」

「そうだな」


そうやって笑い合ったあの日。
今では懐かしい思い出だ。


仲間が次々と殺され、自分が今まで背負ってきた物を一気に無くした気分になった。
辺りに散らばる死体の数々・・・転がる首。
もはやどれが自分の仲間かさえ解らない程に。


「もうこれ以上・・・・」


もう2度と来ないと思ってしまったあの日から私達の道は別れてしまった。




「これ以上・・・」

















ゆっくりと目を開いた。

随分と昔の夢を見た。
再び目を瞑っても夢の続きが見えている・・・


今がどんな状況なのか全く分からない。
自分は今どこにいる・・・?

目の前には天井。
だが、なぜ・・・・





「ようやく目が覚めたようだな・・・」

「小太・・・郎・・・?」


声の主の名をゆっくりと呼ぶとその男は頷く。
目の前には同じ攘夷志士だった桂小太郎が居た。

しばらく唖然とした表情で桂を見ていると、次に身体を半分起こし辺りを見つめる。
小さな和室の部屋に自分は寝かされていた。
まるで今までの事が嘘であったかのように辺りは静まり返っている。


「あれ・・・私・・・何でここに・・・・?」

「たまたま偵察に行っていた時路地裏でお前が倒れているのを見かけてな・・・ここまで運んだのだ。」


そう言って桂は心配した表情で私の頭に触れる。
そこには包帯が巻かれたいた。

頭を思い切り強打したのだ。
このお陰で自分は意識を失ってしまった。まだ頭はじんじんと痛むのがわかる。

そして最後に見えた新八と神楽の姿・・・


「そうだ!!新八と神楽は!?」


薬を嗅がされてぐったりとしていたあの2人。
ここに自分がいてあの2人は一体どうしたと言うのだ・・・


「わからない。俺が見た時はお前と銀時の2人だけだった。」

「え!?銀時も!!?」


そう言って桂が向けた視線に自分も合わせる。
すると自分が寝ているすぐ横で深手を負って眠っている銀時の姿があった。
やはり銀時も奴等と戦っていたのか・・・

それにしても自分が受けた傷よりも銀時の方がダメージは大きいようだ。
あちこちに見える包帯が痛々しい。

だが、新八と神楽の姿はやはり無い。


「そっか・・・・ありがと小太郎。貴方が助けてくれなかったら私達はあのまま死んでたと思う。」


そう言って苦笑すると私は立ち上がろうと身体を起こす。
少し動いただけだと言うのに身体がずきずき痛む。
こんなに攻撃を喰らった事等今まで無かったと言うのに・・・


「何処へ行く!?動いてはいかん、傷はまだ開いたままだ」

「ごめんね・・・私行かなくちゃいけないのよ・・・」

!!」


心配する桂を余所に私は部屋を出て行こうとする。

だが立ち上がった私の腕を掴むとそのまま引き寄せ、優しく抱きとめた。
突然の事に驚いた私は抵抗する事無く身を任せる。

桂は苦しそうな表情でこちらを見ていた。
こんな表情・・・今まで見たことが無い・・・



「お前は昔から無茶ばかりする・・・俺が止めた処で意味が無い事もわかっている。だが、今お前がそうまでした護りたいと思うものは何だ・・・仲間か?」


仲間か・・・確かにそうかもしれない。
笑って楽しく会話して一緒に暮らして・・・・






だが違う




私の考えは今も昔も変わらない




「違うよ小太郎。私が護りたいものは私の武士道・・・ルールなの。それは銀時も同じ。他の誰に何をしようとも構わない・・・だけど勝手に私の陣地に踏み込んできて勝手に荒らされるのが何よりも嫌、許せ無いのよ・・・」


そして桂からそっと離れると優しく笑う。


「心配してくれてありがとう。でもね、どれだけ無茶してどれだけ身体がボロボロになっても私の侍魂だけは綺麗なままよ・・・」

「・・・わかった。もう何も言うまい・・・行くがいい」

「て言うかてめェ何人の恋人に手ェ出してくれてんの?」


シリアスな雰囲気に聞こえてくるだるそうな声。
銀時だ。

いつの間にか目を覚ましていた銀時は、相変わらずな死んだ魚の目をしてこちらを見ていた。
そして不機嫌そうにゆっくり起き上がると、私と桂の間に割り入る。


「おいおいおいおい彼氏気取りですかコノヤロー。人が大人しく寝てりゃあにベタベタ触りやがって」

「てめェもだよ銀時」


腰に回している手を思い切り抓る。
その痛さに銀時が叫ぶ。
身体中ボロボロの筈なのによくもここまで元気でいられるものだ。


「と言うか何で何でお前がここにいんだよ?」

「と言うかそれはこっちの台詞なんだけど。トイレ入ってたんじゃないの?」

「ああ、そん時にあの女を見つけてよ。便所で男に絡まれてたから助けてやったんだよ。」


そう言って銀時は隣の襖を開ける。
そこには写真で見たあの娘の姿があった。
しかし、その顔は写真で見たような元気な姿では無く病人のように顔色が悪い。


「銀時が庇ったお陰で外傷は無いようだが薬で身体中蝕まれている。処置が早かったのは不幸中の幸いだが、果たして回復するかどうか・・・」


やはりやっていたか・・・大体予想は付いていた。

この娘の若気の至りでお陰でこちらも大きな被害を被った。
全く迷惑な話だ。


「と言うか何でお前がここにいんだよ?」

「と言うか怪我の具合はもういいの?」

「ああ。怪我なんかよりも2日酔いの方が俺にはキツイぜ。お前こそいいのかよ?随分派手にやられたみてーじゃねェか。」

「派手にやられたのはお互い様でしょ?まっこれだけ喋れるんだから元気よ」


小太郎の話によると銀時は左腕は使えなくなっており、肋骨も何本か折れてしまっているらしい。
しかし今の様子を見る限り大した心配はなさそうだ。
お互い傷は癒えていないものの威勢だけはいい。


「と言うかお前は何でここにいんだよ?」

「と言うか小太郎。この前の事謝れコノヤロー」

「と言うかお前達はこれを知っているか?」

「と言うかてめェは俺の質問に答える気はねェのかよ」


そう言って差し出したのは袋に入った白い粉。
あの店で春雨達が手にしていたあの粉と同じもの・・・
勿論そんな薬の内容等知る由も無い2人は同時に首を横に振った。


「最近巷で出回っている”転生郷”と呼ばれる麻薬だ。辺境の星にだけ咲くと言われる特殊な植物から作られ、嗅ぐだけで強い快楽を得られるが依存性の強さも他の比ではない。流行に敏感な若者達の間で出回っていたが皆例外なく悲惨な末路を辿っている・・・

天人がもたらしたこの悪魔を根絶やしにすべく我々攘夷党も情報を集めていたんだ・・・そこに銀時お前が落ちてきたのを俺の仲間が見つけ、そして路地裏で倒れているを俺が見つけたと言う訳だ。」


それで銀時も一緒にいる訳か。
何とも運のいい・・・もし桂達が動いていなければ今ごろ自分も銀時もどうなっていたかわからない。


「と言うかあの宇宙海賊春雨って一体どんな奴等なの?」

「奴等は銀河系で最大の規模をほこる犯罪シンジケートだ。奴等の主だった収入源は非合法薬物の売買による利益。その職種が末端とは言え地球にも及んでいると言うわけだ。
天人に蝕された幕府の警察機構等アテにできん。我等の手でどうにかしようと思っていたのだが・・・」


考え込むようにこちらを見る桂。
まさか桂がここまで春雨について調べているとは思ってもみなかった。


「だが、お前達がそれほど追い詰められるくらいだ・・・余程強敵らしい。時期尚早かもしれんな・・・って聞いているのか?」

「ごめん小太郎・・・もう行くね」


桂の言葉を最後まで聞く事無く私と銀時が立ち上がった。
そんなにやばい相手ならこんな所でのんびり話している暇はない。
神楽と新八が殺される可能性が高い。

銀時は掛けてある服を取ると肩に羽織り、次にこちらを見た。


「神楽と新八が拉致られたのを俺は見た。」

「・・・・」

「その時お前の姿が見えなかった。お前の事だから殺される事はないと思ったが死んじまったんじゃないかって一瞬怖くなった・・・だが、お前の顔を見てほっとした。」


そう言って銀時は私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「俺もお前と同じだ・・・荷物ってんじゃねーが、誰でも両手に大事に何か抱えてるもんだ。だが担いでる時にゃ気づきゃしねー。その重さに気づくのは全部手元からすべり落ちた時だ。もうこんなもん持たねェと何度思ったかしれねェ。なのに・・・またいつの間にか背負い込んでんだ。いっそ捨てちまえば楽になれるんだろうがどーにもそーゆー気になれねェ。

荷物がいねーと歩いててもあんま面白くなくなっちまったからよォ・・・そうだろ?」


そして銀時は今日初めて笑った顔を見せた。
その顔に思わずこっちも笑ってしまう。

どうしてこんなにも銀時と同じ考えなのだろう。
自分でも可笑しな奴だと思っているのに・・・
だがこの男といたからこそ迷わず自分の道を見てこれたのだと思う。

坂田銀時・・・本当に面白い男だ。


「全くお前達には呆れる・・・しかしお前達には池田屋での借りがあるからな・・・」

「小太郎?」

「お前達のその身体では重すぎて荷物は持てまい。今から俺がお前達の手となり足となろう。」


そう言って桂は私に白い着物を肩から掛けてくれた。
しかし掛けられたその服には見覚えがある。


ん・・・?

これは私がいつも着てた白い着物だよね・・・?


そして自分の格好を見てみる。
すると自分はキャミソール一丁で銀時の横に立っていた。
この時代においてこの格好はかなりの露出である。


「と言うかまず服を着ろ。」

「と言うかそう言う事は一番最初に言えよ!!」


また見られたァァ!!
先程のシリアルさが何処かへ行ってしまったかのように私は地面に突っ伏した。




























ここはどこだろ・・・


僕は今何をやってるんだ・・・・?






バシャッ・・・・



顔に冷たいものが当たる・・・
これは・・・水だ。


「オ〜イ起きたか坊主?おねむの時間はおしまいだよ〜」

「全くこんなに若いのに海賊に捕まっちゃうなんてカワイソーにねェ」


・・・・ああ


そうなんだ


僕・・・海賊に捕まったんだ。


さんが戦っているのを見ていたら行き成り後ろから変な薬を嗅がされて・・・それからはあまり憶えていない。
頭がふらふらして何も考えられない・・・


「!!」


だがふと視界に入ってきたそれに新八は一気に意識が戻る。
そこには店でぶつかったあの男が神楽を今にも海へ落そうとしている処だった。


「おじさんはねェ不潔な奴と仕事の邪魔する奴が大嫌いなんだ。もうここらで邪魔なねずみを一掃したい。お前等の巣を教えろ。意地張るってんならコイツ死ぬぞ」

「なんの話だよ!!」

「とぼけんな!!てめーらが攘夷志士だってのはわかってんだ!アジトを教えろって言ってんだよ!!桂の野郎はどこにいんだ!?」


行き成り頭を掴まれ頭を揺さ振られる。
こいつらは自分達を攘夷志士の仲間だと思っているのだ。


「何言ってんだよお前等!!僕等は攘夷志士なんかじゃないし桂さんの居場所なんて知らない!!神楽ちゃんを離せ!!ここは侍の国だぞ!!お前等なんて出てけ!!」

「侍だァ?もうそんなもんこの国にはいねっ・・・・」


次の言葉を紡ごうとした瞬間、ずっと目を瞑っていた神楽の目が笑う。


「ほァちゃアアア!!」


そしてそのまま両足で男の顔面を蹴った。
男が殴られ倒れたせいで神楽を支えていた剣を離す。

抵抗も出来ないまま神楽は宙に浮いた。
そしてこっちを見て微笑む。


「足手纏いなるのは御免ヨ、バイバイ・・・」





そして神楽はまるで人形のように海へと落ちて行く・・・






















「待て待て待て待て待て待て待て待てェェェェ!!!」


何処からともなく聞こえてくる声に新八は目を疑った。
その声の主は神楽を抱きかかえると地面に叩きつけられる。
そして砂煙の中からよろっと立ち上がりだるそうにこちらを見た。


「こんにちは坂田銀時です、キャプテン志望してます。趣味は糖分摂取、特技は目ェ開けたまま寝れる事です。」

「銀さん!!」


そう・・・その男は銀髪の坂田銀時であった。


「てめェ生きてやがったのか」








ガアアァァァン・・・・




男がそう呟いた途端行き成り倉庫が爆発する。
もの凄い騒音と共に倉庫から煙が立ち込める。
そこには沢山の転生郷が置いてある場所だった。
爆発によって火が起こり転生郷の粉は炎と一緒に燃え上がる。


「陀絡さん!!倉庫で爆発が!!転生郷がすべて燃えてしまいました!!」

「なんだと!?」

「俺の用は終わった。あとはお前達の番だ銀時、。好きに暴れるがいい。邪魔する奴は俺が除こう」


爆発の中から現れたのは桂小太郎。
桂の目的は転生郷の粉をすべて燃やす事。


「てめェは桂!!」

「違〜〜〜〜う!!俺はキャプテンカツーラだァァァ!!」


そう言うと桂は爆弾を両手に持つと天人に向かって投げる。
もはや船すべて爆破され、何も残ってはいないだろう。


「やれェェ!!桂の首をとれェェ!!」

「自分の首がとられる事を心配しなさいよ」


そう言って刀で斬りつける。
天人は一瞬のうちに倒れた。
残っているのはこいつら天人だけ・・・


さん!!」

「ごめんね待たせちゃって」


陀絡と銀時の決戦の為私と桂は他の天人達を倒すのが役割。
そしてこれですべて終わる・・・宇宙海賊春雨は・・・


「いいか・・・てめーらが宇宙のどこで何しよーとかまわねーよ。だが俺のこの剣こいつが届く範囲は俺の国だ。無粋に入ってきて俺のモンに触れる奴ァ将軍だろーが宇宙海賊だろーが隕石だろーがブッた斬る!!」





間合いを詰めると2人は同時に動いた。






「クク・・・・オイてめっ便所で手ェ洗わねーわりに・・・・」






「けっこうキレイじゃねーか・・・・・」








そして陀絡は倒れた。

































「あ〜ダメっすねホントフラフラして歩けない・・・」

「日ィ浴びすぎてクラクラするよ。おんぶ〜」

「何甘えてんだ腐れガキども!誰が一番疲れてっかわかってんのか!2日酔いの上に身体中ボロボロでも頑張ったんだよ銀さん!!」

「僕等なんて少しとはいえヤバイ薬かかされたんですからね!」

「いい加減にしろよコラァァァ!!上等だ!おんぶでもなんでもしたらァ!!」


そう言って銀時は新八と神楽を抱え挙げるとそのまま歩き出す。


「ったくよ〜重てーなチクショッ・・・・」


沈みかける夕日が暑くて銀時は眩しそうに空を仰いだ。





















「フン・・・今度はせいぜいしっかり掴んでおくことだな・・・」

「大丈夫だよ銀時なら。もう落す事は無いと思う・・・あんだけ重いんだもん」


2人で銀時達を見下ろしながら言う。
まるで銀時がお父さんみたいだ・・・そんな事を思いながら。


「それはお前にも言えた事だろう?。」

「いや私のひろーい背中にあの3人だけじゃ足りないわよ。小太郎も他の皆も道を歩いていくのに必要なお荷物なんだからね」


そう言って桂に微笑む。
私の言葉に”そうか”と一言だけ言うと満足そうに桂も微笑んだ。
そして地面に着地すると私は桂を見上げる。


「その格好よく似合ってる。協力してくれてありがとう」

「例には及ばない。の為ならいつでもこの力を貸そう」

「あはは・・・でもこんな事は2度と起きて欲しく無いけどね・・・それと次からああ言う事は早く言ってよね!」


ああいう事とは昼の話。
あんな破廉恥な格好でいたと思うと顔が赤くなる。
これで2度目なのだ・・・いい加減自重したい。


「大丈夫だ、。あの姿を見てもまだ俺は
隠れ巨乳だと言う事を信じているぞ」

「そんな信仰心いらねェェェ!!!!」




桂の真顔のボケに私は大声で突っ込むのだった。